深川区の絵葉書に涙する

エドルネさんのツイッターで紹介されていた、今尾恵介氏の連載「日本を定点観測する」白水社)を拝読。内容の面白さもさることながら、掲載されている一万分の一地形図の色使いの美しさに、妙に惹かれるものがありました。

こういう色を何ていうんでしょう、お習字の先生が使う朱墨を思いださせて、どこか郷愁を誘うのですね。今回紹介する地図の色使いも、地形図ほどではないにしろ、それに一脈通じるようなあたたかさが気に入って、購入しました。

国土変遷アーカイブの空中写真しかり、gooでも都内の古地図が簡単に閲覧できる便利なご時世です、現物への見方も相当変わったことでしょう。しかし、やはり時間を経たものが発散する空気は、モニター上では感じられない現物独特のもので、何物をもってしても代えがたい味わいを感じるのです。



さて、この「深川區全圖」と題した地図、絵葉書です。以前も新潟の地図を紹介したように、水運時代を感じさせる絵葉書や古写真を探して歩いていると、地図の絵葉書に出くわすことがよくあります。葉書のような小さな判形で、地図のような細かい絵柄や文字は読めないだろうと思われるかもしれませんが、どっこい、これが結構読めるのです。

もちろん、虫眼鏡か何かで拡大しなければ苦しい(老眼も進んできたし)のですが、道や水路はもとより、地名を記した小さな文字までかなり鮮明で、顕微鏡をのぞくような面白さがあります。これは再現性の良いコロタイプのおかげで、アミ点による活版やオフセットでは、こうはいきません。

この地図絵葉書、当時の東京市内各区のものがあるシリーズで、他にも神田、京橋区など、水路が描かれたものを選んで何枚か手に入れたのですが、やはり一番惹かれたのが、この深川区。江戸時代から戦後のものに至るまで、このあたりの地図はいくつか見てきましたが、陸上交通が発達する以前の、江戸期の面影を色濃く残す震災前のこの時期のものは初見だったので、新鮮さも手伝い見ごたえがありました。

網の目のごとく縦横に走る水路はもとより、形も大きさもさまざまな無慮大数の水面が掘り込まれたさま、特に大横川両岸のあたりをご覧ください、地面より水面の方が多いこの充実感(?)! もう何だか泣けてきますわ。

木場のあたりのそれは貯木場で、右下などいくつかある広大なものは、養魚場(地図には『養魚所』とあり)です。何となく気になって、大横川と仙台堀川の十字流をのぞいてみたら、大栄橋と崎川橋らしき橋は見えたものの、茂森橋はありませんでした。あそこは現在の橋が初めて架橋されたものですから、当然ではありますが…。ちなみに、橋名のもととなった茂森町は、十字流南西角にちゃんと明記してあり、嬉しくなりました。

さておき、これらの水面のほとんどは、お庭の泉水のようにただむなしく広がっていたのではなく、それこそすき間のないくらい原木やフネブネがひしめき合う、必要欠くべからざる貯蔵施設であり、輸送手段であ(略)…いやもう、水路天国の地図を前にしただけで妄想は果てしなく、いらざることをいくらでも書きなぐれそうであります。まこと、地図ほど想像力をかきたて、時のたつのを忘れさせるものはありません。

遅ればせながら、絵葉書の発行年代など。裏面の通信欄・宛先欄の比率が1:2ですので、明治40年から大正7年の発行と推定できます。付け加えると、永代橋から本所に至る市電は、おおむね大正初めまでに開通しているので、それ以降の発行と見てよいでしょう。 なお、通信欄下端には「中村商店発行」の銘が入っていました。


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タグ : 絵葉書・古写真

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