極小閘門づくし

閘門が大好きです。
近場にある江戸川・扇橋・荒川の3閘門を、自艇でたびたび訪ねては通航するのも、もちろん大好きですが、陸路おもむいて他地方の閘門を見に行ったり、観光船を借りて通航したりするのも、自艇で通るのとは、また違った楽しさがあるものです。
●中でもどういわけだか、自分の艇ではちょっと通ることの難しそうな、小さな小さな閘門たちに、以前より特に惹かれるものがありました。小粒ながら、一人前に扉体で水を受け止めるミニ閘門たちを前にすると、何か模型を見るような楽しさがあり、つい時間を過ごしてしまうこともしばしばでした。
例によって、写真を並べて一人悦に入ってみたくなったこともあり、今回は、今までに出会った極小閘門のスナップを集めてみましょう。
以下に並べたものは、あくまで私の感覚で選んだものですが、改めて選んだものを見てみると、大体径間4~5m以下のものに、グッとくるところがあるようです。なお、陸路訪ねて銘板が確認できたものには、極力寸法などを明記することにしました。
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径間3.3m、長さ10.7m、平成2年竣工。
●水郷十六島の、十二橋で有名な新左衛門川と、常陸利根川を結ぶ閘門。観光サッパの周遊コースにあるだけに、扉体にはアヤメの絵が描かれ、閘室や堰柱もタイルで化粧されているなど、観光地らしい装い。
水路をたどってゆくと、民家の密集する中にぬっと現れる異様さが千両。国内の閘門では、恐らく1、2を争う通航量を誇ると思われる。小なりと言えど、スライドゲート式の注排水装置を備える本格派閘門でもある。


径間3.3m、長さ18.5m、昭和63年竣工。
●水郷十六島、大割水路と常陸利根川を結ぶ閘門。外観、構造とも加藤洲閘門と略同型で、かつ観光サッパの周遊コースにあることも同じながら、タイル張りはされておらず若干簡素な印象。
民家風の排水機場が併設されているのが特徴。加藤洲同様、非常に通航量が多く、アヤメのシーズンには入閘待ちのサッパが列をなす。


径間3m、長さ21.1m、昭和56年竣工。平成21年末解体。
●大割水路の中ほどから分流する、江間(エンマ)を守っていた超小型閘門。
十六島のど真ん中、周囲360度さえぎるもののない水田に屹立するロケーションの佳さもさることながら、昇降装置がラック駆動であることに加え、大割水路側が電動機側操作、江間側が人力操作という変則ぶりも珍しく、水郷にある閘門の中では最右翼的存在だった。
惜しいことに、昨年末から今年にかけて撤去され、現在はその姿を見ることはできない。


径間2.8m、昭和38年竣工。
●潮来市街近く、常陸利根川~鰐川間を結ぶ、前川にある閘門。現存する水郷の小閘門群では、恐らく下の仲江間閘門についで古いもの。
閘室上を道路が覆っており、堰柱も古びているため、遠目には廃閘門のようにも見える。併設の運転室からしか操作ができないので、通航量は非常に少なそう。その雰囲気とはうらはらに、梁に掲げられた銘板が、立派な石造りなのが目を引く。


径間2.744m、昭和59年改修、竣工年不明。
●十六島の南の入口であり、利根川から与田浦までを一直線に貫く水路、仲江間(なかえんま)の南端に位置する閘門。現存、しかも稼動している極小閘門では恐らく最古級。掲げられているプレートによると、正式名称は「仲江間二重水門」。
閘門のゲートで、スピンドル駆動のスライドゲートというのも珍しい。運転は機側操作のみだが、隣接している民家の住人が管理・運転を委託されているため、大洲閘門よりは気安い通航ができそう。加藤洲閘門同様、民家密集地にある「ぎっしり閘門」の一つでもある。かつての黄金コース、佐原~十二橋~潮来の観光航路上にあったため、殷賑を極めていた時代もあったことだろう。


径間2.8m、長さ35.6m、平成6年竣工。
●大洲閘門と同じ前川の、鰐川と接する地点に設けられた閘門。
大洲閘門とは対照的に、船側からのセルフ操作装置、注排水ゲートを設備する結構な規模の近代閘門ながら、径間が狭くアンバランスな感じを受ける。樋門を併設している「樋閘門」であるのも珍しい。


径間4.6m、平成6年竣工。
●琵琶湖に注ぐ川の一つ、長命寺川の河口に設けられた逆水防止の水門、渡合堰に併設された閘門。水門閉塞時に、通船確保のため用いられる。
堰柱上の巻上機室は、デザインに意が用いられているのも観光地風。訪問時は、長期間稼動していなかったらしく、扉体前には泥が堆積し、草が生えていて長閑な雰囲気だった。


径間4.0m、昭和63年竣工。
●渡合堰と同じく、琵琶湖に注ぐ河川にある、水門に併設された閘門。水門の規模が大きいだけに、閘門の径間の狭さが際立つ。信号の灯器が3灯式なのも面白い。


径間、竣工年不明。
●上部構造のないスイングゲートに加え、民家密集地にあり、水路も前後が屈曲区間と、まるで発見されることを拒んでいるかのように条件が揃った、「ひっそり系閘門」。水門を名乗ってはいるが、間違いなく閘門である。今まで見た中で、もっとも興奮させられた物件であるので、脳内でひそかに極小閘門大賞を進呈している。
八幡堀の高水位側は、なかば閉塞水面であり、低水位側は閘門のすぐ近くに、水郷めぐり船乗り場があるので、稼動する機会はあまりないと思われる。
スイングゲートの極小閘門は初見で珍しく、しかもスキンプレートと、低水位側の扉体の開き方向が通常と逆なのも興味深い。西の海方(低水位側)からの逆水防止のために、この構造が採られたのだろうか。
●単に行動範囲が狭い、というだけのような気もしますが、ご覧のように、十六島と近江八幡の、東西両水郷の周辺に固まって存在しているのが、いかにもらしい感じがしますね。
全国に目を広げれば、もう萌え死にそうな極小閘門が、まだまだあるに違いありますまい。このあたりはその道の大家である、佐藤老師のご発表に待つところ、大なるものがあります。西天竜頭首工の閘門、径間1.3mと言われたときは、本当にどうしようかと思った…。伏してお願いたてまつります。
閘門は、少なくとも私にとって、水位差を克服し、別世界に連れて行ってくれる夢の装置。まさに男のロマン、そのものであります。
自艇で行けない遠きにあり、しかも無理に自艇を運んでいったところで、寸法的に通ることさえ難しそうな極小閘門に惹かれるココロ、それは所詮かなわぬ夢ゆえに、より想う気持ちが強くなるという、気持ちのあらわれなのかもしれません。(きれいにまとめてみたつもり)

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コメント
No title
Re: No title
>夢民丸さん
下利根流域でお乗りですか、これからは極小閘門三昧で楽しそうですね。
下利根流域でお乗りですか、これからは極小閘門三昧で楽しそうですね。
No title
はじめまして。
加藤洲閘門の工事に従事していた者です。
あれはタイルではなくて、タイル調のフォームにコンクリートを打ち込んで塗装したものなんです。
色合いは竣工時と同じです。
足場を払ったときに「凄い色・・これでいいのか?」と思ったのを憶えています。
地元の小学生が考えた色だったような記憶があります。
ハプニング連発の難工事でした。
詳細な記事を拝見していると、なにもかもが懐かしく思い出されます。
加藤洲閘門の工事に従事していた者です。
あれはタイルではなくて、タイル調のフォームにコンクリートを打ち込んで塗装したものなんです。
色合いは竣工時と同じです。
足場を払ったときに「凄い色・・これでいいのか?」と思ったのを憶えています。
地元の小学生が考えた色だったような記憶があります。
ハプニング連発の難工事でした。
詳細な記事を拝見していると、なにもかもが懐かしく思い出されます。
Re: No title
>Yさん
お話興味深く拝読しました、加藤洲閘門が大好きなので、こういったお話は嬉しいです。
今は地震で被災して通航止めとなっていますが、一日も早い復活をお祈りしております。
お話興味深く拝読しました、加藤洲閘門が大好きなので、こういったお話は嬉しいです。
今は地震で被災して通航止めとなっていますが、一日も早い復活をお祈りしております。
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北部印旛沼→利根川の酒直水門の端にある閘門も船からセルフ方式ですんで今度行って動画をアップしたいところですw