初めて臨検されたときの思い出

201035.jpg臨検されてみたい」、「臨検で始まる水路行!」で触れたように、お役所筋による水上でのお改めには、やつがれ滅法弱い(趣味的にイイ意味で!)のはご存知のとおりです。

先ほど、昔の書類を探す用事があり、古いクリアファイルをひっくり返していたら、懐かしいモノが出てきて、思わずニンマリしました。いってみれば「臨検好き」になった、きっかけの産物だったからです。

まあ、とても自慢できることではなく、むしろ恥ずべきことなのですが、懐かしさが勝ってしまったので、何かの参考にでもなればと、思い出されたあれこれを、例によって垂れ流させていただきます。

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もう26年前、平成3年は8月10日のことです。日記もつけていなかったのに、日付がわかるのは以下参照ですが、それはさておき。先代艇に、フネには全く素人の友人を一人乗せ、母港の小網代を発って相模湾を北上、葉山の沖あたりで艇を止め、流されるままにたゆたっておりました。

江の島を間近に眺め、三浦半島の緑したたる稜線も一望のもと。波は少し出ているものの、南風で波浪しがちな8月としては穏やかで、ローリングする艇上で呆けていると、友人からの声で我にかえりました。

おい、あの船、まっすぐこっちに近づいてくるぞ!
思い返せば、ワッチ(見張り)の基本もなっちょらんことがわかって、この時点からすでに恥ずかしいな。まあ若毛いやちがった、若気の至り(ちょっと意味が違う気がする)ということでご容赦ください。さておき、向き直ってみてみると、まだ相当距離はあるものの、船首波が白く見え、軸線は明らかに我が艇を指向しています。

これはイカン、とあわてて操舵席に飛び込み、キーをひねってセルを回し‥‥かからない。
もう一回‥‥かからない。
もう一回‥‥やっぱりかからない。
エ ン ジ ン が 始 動 し ま せ ん。

さっきまで快調に回っていたのにと、あたふたしているうちに、その船は我が艇のすぐ横まで来て、減速しました。海上保安庁の巡視艇です! いつもなら、目の正月と嬉しくなるところですが、このまま漂流かと泡を喰っていたところだったので、「これで少なくとも、遭難せずに済んだ!」というのが正直なところでした。

保安官が甲板室から出てきて、声をかけてきました。長い柄のついたタモ網をニュッと突き出し、
免許と船検証を入れてください。」はいはい、と帆布の衣嚢から、当時はパスポートより大きなサイズだった、四級船舶免許を取り出して網の中へ。
船検証は?」えーと‥‥。
船 検 証 が な い。

保安官氏、同僚と顔を見合わせてちょっと渋い顔になり、違反で書類を書いてもらうから、近くにいる本船まで同航しなさいとのご指示。いわれてみて初めて気づくあたりも情けないのですが、はるか向こうに小さく、巡視船が漂泊しているのが見えました。

何分カメラも持っていなかったので、船名は思い出せないのですが、船橋正面に丸窓が並び、中央の舷側をぐっと低めた、排水量船型のPMタイプだったことはよく覚えています。実はこれこれしかじかで、自力航行ができないと訴えると、乗り組みさんがてきぱきともやいを取って下さり、巡視艇に横抱き曳航されて、そのまま巡視船に接舷。

繋留作業が終わって落ち着いたところで、上がってらっしゃいとの指示が。当時、艇上では滑ることを恐れて基本裸足で、ゴム草履もカディにしまってあったので、裸足のまま巡視艇の甲板へ。

甲板上は滑止ペイントというのでしょうか、砂粒を混ぜたようなザラザラの塗料で厚く塗ってあり、足の裏がチクチクします。甲板に上がると、隣の巡視船の重々しい爆音がビリビリ伝わってき、船首に備えられた機関砲も間近に見え‥‥。おおお! 先ほどまでのしおれぶりはどこへやら。がぜんテンションが高まり、自分のペースが戻ってきました。

そばにいた乗り組みさんを捕まえて、
あの機関砲、口径は何ミリですか? 1分間に何発撃てるんですか?
この艇は全速で何ノット出るんですか?
‥‥などなど、しおらしくあるべき違反者にあるまじき態度。今思い出すと恥ずかしすぎて、当時の自分を海にレッコしたくなるようなキ〇ガイっぷり

だって、巡視船艇に乗せてもらうのは、生まれてはじめてだったのですから、多少狂うのも無理もないと、当時の自分を弁護しておきましょう。辟易しながらも、優しく応対してくれた保安官氏、「お~い船長! こっちへ入って!」と、苦笑しながら艇内へ誘導してくれました。

入口のすぐ前は船橋で、コンパスや舵輪をはじめ計器類がズラリ。ここでもレーダーのモニターをのぞき込んだり、そわそわしていると「こっち、こっち」と階段を下りた一室へ。固定された長椅子にかけることを勧められ、テーブルを挟んで、書類を前にした保安官氏と向き合いました。いよいよ、お取り調べであります。

書類に艇名や全長、定繋港に住所氏名と、指示どおり書き込むと、保安官氏はカーボン複写の書式に必要事項を転記し、終わると表面の一枚をはがして、渡してくれました。冒頭、昔のクリアファイルから出てきた、
↓これです。

201031.jpg

保安官氏いわく、あなたはこれこれの法律に違反していると説明の後、帰港したら、速やかに船検証のコピーを封筒の宛先(千葉海上保安部)に郵送すること、今回は初回だから、このとおり警告で済ませるけれど、指示に従わない場合は
検挙される
こともあるよ、と、穏やかではありましたが、厳しい面持ちでご注意くださり、放免となったのでした。

皆さんにお詫び申し上げ、さすがにしおらしく下船、解纜‥‥といきたいものの、何分エンジンが動かないとあっては、そうもいきません。恐縮ですが‥‥と無線で母港を呼び出してもらい、迎えの艇に曳航されて帰るという、情けなさに輪をかけた幕引きと相成ったのでありました。

ちなみに、お世話になったこの巡視艇、ハルナンバーCL234、「しらうめ」。これは幸い、もらった千葉海上保安部の名前入り封筒に、メモしてあったのでわかりました。乗組みの皆さん、その節はお世話になりました。

64隻を数えた「やまゆり」型の一隻で、37総t、全長18m、出力900馬力、速力20kt。昭和55年に竣工し、平成20年に解役されたそう。今のところ、私が乗ることができた、最初で最後の保安庁船艇です。カメラを持っていなかったのが、本当に惜しまれますわ‥‥。

まあ、写真一枚なくとも、「キップを切られた」おかげで警告書が手元に残り、これを久しぶりに目にしたとき、26年前の情景を、それこそ滑止ペイントの感触から、保安官氏の潮枯れした声色まで、ありありと思い出すことができたのです。

違反をしてその態度は、とのお叱りも当然ありましょうが、私にとってはまさに、艇に乗っていなければできない、最高の非日常体験であり、各位にご迷惑をおかけし反省しきりではあるものの、フネの趣味に新しい世界が開けた瞬間でもありました。そう、
臨検はいいぞぅ。
‥‥すみませんすみません。

ええと、さすがにこのとき、ダブルで痛い目を見た経験は、ホネ身に染みまくりました。船検証は忘れずに携帯するようになり(当たり前だ)、機関を含めた出港前点検は、念入りに行う(当たり前だその2)ようになったのあります。はい。

‥‥で、エンジンがかからなかった原因ですが、漂泊中に燃料残を確かめるため、タンクの入っているハッチ(単なるフタ)を開けた際、ハッチを逆向きに閉めてしまい、燃料ホースがつぶれてガソリンが供給されていなかっただけであることが帰港後に判明。思い出すだに身もだえしたくなるような、おっさん初心者時代のオソマツでありました。

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