紅林章央氏の新刊「橋を透して見た風景」

194081.jpg橋を透して見た風景 
紅林章央 著
都政出版社  
並製 286ページ
平成28年10月1日発行


25年5月放送の「関口宏の風に吹かれて」#38・#39でご一緒した、都建設局の橋梁構造専門課長、紅林章央氏の新刊です。

東京の橋に第一線で携わってこられ、また橋の研究家としても、多くの論文や著書のある紅林氏の本ですから、面白いことこの上なく、ご恵送いただいた初日に、一息に通読してしまったほどでした。

そんなおつむに血が上ったおっさんのこととて、内容を全部垂れ流してしまいそうで危なっかしく、その道の大家の著書を云々するのもおこがましいですが、辛抱たまらんのでやっぱり思いのたけだけでも垂れ流させてください。ええもうほんの少し。

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東京の橋というと、まず隅田川下流部のそれを中心とした、一群の震災復興橋梁が思い出されます。実際、本書にも復興橋梁は多く採り上げられていますし、震災復興事業と、それに携わった人々の顕彰は、本書のテーマの一つといってもいい過ぎではありません。

しかし、それだけのみに留まらないのが「さすが紅林氏!」とヒザを叩くところ。いくつか挙げるなら、北多摩の玉川上水などの用水堀に江戸時代に架かっていた橋が、ほとんど石造桁橋だったこと、奥多摩に全国的にも希少な肘木橋が、三つも集中していたこと、解体調査中である東京最古の石橋・常磐橋のアーチの輪石は、裏面から見ると整形されていなかったこと‥‥。

これだけでももう、その筋の方なら大いに好奇心をそそられるでしょう。もちろん単なるピックアップにとどまらず、なぜこのタイプの橋が選ばれたのか、橋だけでなく道路全体、インフラとして眺めたときに読み取れるものなど、テーマ別の記事一つ一つの短さ(雑誌『都政新報』に連載されていたものを、加筆の上まとめたものだそう)にもかかわらず、解説は十全に行き届いており、満足感も高いものでした。

話を戻すと、江戸・明治の昔から平成まで、大川筋から三多摩の山深くまでと都内の橋を網羅し、現存している著名な“名橋”だけが「東京の橋」ではない! と改めて痛感させられること請け合い。さまざまな「橋景色」と、それらに心血を注いできた人々のエピソードが、まるで絵巻物のように視界いっぱいに展開してゆく、といったらよいのでしょうか。

人物についても、樺島正義をはじめ設計者、デザイナー16人がそれぞれ一章を設けて採り上げられ、経歴や師弟関係についても詳しく触れられて、橋に携わった人々の功績や理念のみならず、各時代の人事や制度にも興味がそそられて、これまた面白く読めました。
特におっ、と個人的に目を引かれたのが、明治時代の技術者、金井彦三郎の採用辞令書を、紅林氏が古書店で偶然発見(!)された下り。「モノが人を選ぶときがある」とは、あるベテラン蒐集家の言葉ですが、紅林氏のこのお話はまさにその典型で、私も似たような経験があるだけに、氏の情熱が運命の糸を手繰り寄せたに違いない、と嬉しくなったものでした。

ええもう興奮のあまり垂れ流してすみません、長くなるのでまとめます。各記事を通して一貫しているのは、インフラを維持・整備してゆくことの難しさ、大切さを訴えていること、同時に橋や技術者への、あふれんばかりの愛情と、深い敬意が感じられることです。

ともあれ、一読すれば、昨日までの橋景色、川景色が、豊潤かつ重厚な物語をまとって、まるで違った風景として見えてくることと思います。文字どおり「橋を透して」広がってゆく、橋そのものに留まらないストーリーが楽しめる本なのです。
水路からの橋めぐりはいうに及ばず、川辺の散策に、あるいは渓谷に架かる橋を求めてのドライブに携えれば、橋のみならず、インフラへの興味は何倍にもいや増すことでしょう。さらに橋梁趣味書としても、資料性の高い貴重な図版が豊富に掲載されていることもあり、その道の愛好家にも広くお勧めできる好著であります。

なお、本書を読まれて、三多摩地区の橋についてもっと詳しく知りたくなった向きには、ウェブ上に公開されている紅林氏、前田研一氏、伊東孝氏の論文「東京・三多摩地域における木・石・れんが橋の発展に関する研究」(PDF・土木学会土木史研究・論文集』より)をお勧めします。

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タグ : 橋を透して見た風景 都政新報社

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