「徐航」は何ノット?

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写真は旧江戸川でたびたび目にする、コンクリート堤防にペンキでじか書きされたもので、読んで字のごとく、通航船艇に徐航を訴えたものです。船が高速で走れば引き波が立ち、繋留船や桟橋が揺れて、もやいや船体を痛めるからであることは、いうまでもありません。

河口からしばらくの区間を除いて、ほぼ流路全域に渡り船溜やマリーナ、暫定繋留施設が点在し、小型船舶の保管水域として高度利用されている、旧江戸川ならではの注意書きといえますが、これがどこかのんびりとした、ある種独特の雰囲気をかもし出していて、「ああ、旧江戸川に来たんだなあ」という気持ちにさせられるパーツでもあります。

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もちろん、これを書いた方の気持ちは切実なものがあり、のんびりどころではないでしょう。少なくとも船影がある区間は、引き波を立てないよう十分に行き足を押さえ、そろりそろりと歩かせることが求められるわけで、約10㎞の流路延長を1時間以上かけて、江戸川閘門に到達するわけです。

さて、こういった注意書きを目にして、ではどのくらいの速度で走ったらよいか、と思われるのは自然の流れでしょう。
実際、「(川や運河に)道路のような速度制限はあるのですか?」「制限速度は何キロ?」という質問をたびたびいただきます。しかし、真面目に答えようとすると、「場所によって速度制限はあるが、制限速度は定められていない」という、少々ややこしいものになってしまい、かえって首を傾げられ、さらなる説明に苦しんだものでした(笑)。

船が動くことで生じる引き波は、喫水線下の形や機関の出力によって、それぞれ異なります。長さ30ftの艇が3ktで走っている、といっても、細身で喫水の浅い和船ならそうでもないところ、喫水の深く肥えた船型の曳船なら、盛大に引き波が立つこともあるわけです。極端な例ですが、ジェットフォイルはあれだけの超高速を出していても、翼走時の喫水はわずかなため、引き波はぐっと少ないのをご存知の方も多いでしょう。

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また、水路幅や水深、護岸の形状による違いも見逃せません。荒川のように幅が広ければ、引き波が岸に到達するまでにだいぶ衰えるでしょうし、反面目黒川ほどの狭水路であれば、少しの速度でも影響甚大ということになります。

岸に目を向けると、水面下までゆるい傾斜の法面に造られた水際なら、引き波の減衰も早いのですが、鋼矢板など垂直の護岸になると、波はもろに反射して、お互いぶつかりあい三角波となり、いつまでも消えないものです。

つまり、川や運河での適正な速度というのは、さまざまな条件に左右される相対的なものといって、差し支えないと思います。環境や船形でケースバイケースとなれば、速度を定めるのもナンセンスだし、GPS普及以前、そもそも小型船舶のほとんどは、速度計など備えていないのが普通でしたから、管理するお役所の方も、この点はずいぶん悩んだのではないでしょうか。

荒川や江東内部河川の、「引き波禁止」の標識を掲げた「減速区域」が設定されている水域も、沿岸や繋留船艇に支障のない範囲の徐航を求めているのみで、「制限何kt」と、数字を掲げて速度を規制しているわけではないのは、そんな現状を踏まえると、納得できることではあります。それ以外の水路には、おおやけに定められた徐行区間というのはありませんから、旧江戸川を含め、いわばマナーの範疇といってよろしいでしょう。

ちなみに我が木っ端ブネで本流上の徐航をするときは、回転計で1000rpm強を目安にして、後は航跡を振り返り、引き波の立ち具合を見て調整しています。

水路徘徊を始めたころ、自分で十分行き足を落としたと感じていても、繋留船の方から「もっと落として!」と声がかかったことがしばしばあり、つど頭をかいてはスロットルを絞ったものでした。後に都内を母港としてから、自艇の繋留環境も似たようなものになったので、この「引き波で振り回される側の気持ち」が理解できるようになり、大いに反省させられたものです。同じ水路上にもやうフネブネ同士、お互い気を配り合って、気持ちのよい舟行きを心がけたいものですね。

(27年10月4日撮影)

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タグ : 旧江戸川

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