明治時代、隅田川で艀レースがあった!

154128.jpg内航本船乗組員ならではの海事情報や、折に触れて掲載されるフネブネや海象の写真が興味深く、いつも楽しく拝見させていただいている「カラスのアレ(どれ?‏@uranoise」さんのツイート。

昨日14日、以下のようなツイートを拝見して、大いにうなずくと同時に、「そういえば、以前読んだ本に、似たようなことが書いてあったなあ‥‥」と思い出したのです。
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もっとも本船ではなく、川や港湾で働く艀、バージのお話ですが、今や東京ではすっかり縮小してしまった回漕業界も、かつては華やかに鍛錬を兼ねたイベントを催し、宣伝これ大いにつとめ、意気上がった時代もあった、というお話です。



161000.jpg明治百年東京はしけ物語 
馬場伊之助 著
湘南版画工房  
綴並製 324ページ
昭和44年12月1日 発行


そのお話が載っていた本とは、「明治百年東京はしけ物語」。

明治21年、代々回漕業の家に生まれ、自身も回漕業者として活躍してきた、いわば斯界の古老である著者が、業界の歴史が埋もれるに忍びなく筆を取り、回想や聞き書きをまとめたもの。「日本海事新聞」に連載されていたそうです。

話が整理されていない部分も少なくなく、正直、散漫で読みづらいきらいはあるものの、曳船登場以前の艀の話から、港湾整備や大正以降の労働争議まで、手当たり次第といった感じでエピソードが詰め込まれており、面白く読みました。
中でも興味を惹かれた話の一つが、お題でもある「はしけ手漕競争」という章です。以下要約してみましょう。

時は明治38年。開港地である横浜港の本船から瀬取った物資を、港湾の整備されていない東京まで、艀によって運ぶことで発展してきた、ご当地東京の回漕業界。

おりしも日露戦争のころとあって、いざというときに備え、身体を鍛えておかねばという勇ましい気風が船頭間にあり、雇主である回漕店・尾張屋の主人に相談したところ、腕くらべを兼ねて競争をしてみては、との話が同業者の寄り合いで発案されたとのこと。

この提案に各回漕店や船頭も賛成し、開催も10月某日と決定。以下の三隻がレースにエントリーすることとなりました。乗り組むのは、いずれも二十歳前後の若い船頭で、もちろん動力はなく、棹や艪で漕ぐのです。曳船による艀曳航が、普及する前のお話であることにご注意ください。

金比羅丸(尾張屋・36t・3名乗組)
八幡丸(六郷・36t・3名乗組)
平安丸(毛塚・36t・3名乗組)


徐々に大型化する傾向にあったとはいえ、積載量の少なさに時代が感じられますね。

ちなみに、京浜間など長距離の移動は、各船単独に帆走するのが普通で、風向きが悪ければ当然滞船しなければなりません。著者馬場伊之助の父・作太郎は、滞船の問題を解決するため、一銭蒸気の隅田川汽船株式会社(『渡船と一銭蒸気に思いをはせて』参照)より曳船「第十隅田丸」を購入、明治33年には、東京初の艀曳船業者となったとのことです。閑話休題。

さてコースは、当時の月島南端をスタート地点に、新大橋をゴールとする約8km。回漕店の主人や従業員は伝馬に分乗したり、永代橋の上から応援したりと大騒ぎ。事前の宣伝もあったようで、時ならぬ水上のイベントとあって、一般の見物人も相当な数にのぼったものと思われます。

競技開始は午前10時。水上警察の艇が両脇を随伴する中、三隻の艀が一斉に月島沖をスタート! 棹を使うことを考えて、潮位は「そこり時」という、最低潮位の時間帯を選んでの競争。干潮時となれば流速は早く、遡上にもより多くの力がいるでしょうから、船頭たちの苦闘がしのばれます。

最初は棹を用いるので、棹が河底に届く浅い岸辺に寄せて各船が固まり、「舷々相摩す」といった格好だったのが、石川島あたりまでくると水深が増したため、艪に持ち替えての遡上となったそう。現在の隅田川派川の付近から、澪筋として水深があったことがわかり、当時の河相がかいまみえて、興味を惹かれますね。

さて、レースの結果はというと、三隻ほぼ同時に新大橋にゴールイン。勝負はつかなかったものの、艀業界空前の一大イベントは大いに盛り上がったと見え、夜には深川八幡宮前の伊勢平なる店で慰労会が催され、意気盛んな若者たちの健闘を祝して、万歳三唱で締められたとのことです。

レースのお話とは関係がありませんが、業者の振興活動としては同様という意味でしょうか、この章のおわりには、かつて行われた曳船のパレードについても触れられていました。「東京みなと祭」の出しものの一つとして、昭和27年から数年間、「曳船行進」が行われていたというのです。

コースは竹芝埠頭から隅田公園まで、午前と午後の2往復。曳船が20数隻というだけでも凄い数なのに、保安庁、水上警察ほかの官庁船艇も参加したといいますから、この大船隊が隅田川を上下する光景は、まさに河道を圧するものがあったでしょう。橋を渡る人々も、目を奪われたに違いありません。

東京みなと祭」も今年で66回目を迎え、体験乗船など各種イベントも盛りだくさんですが、この本にあるような、業務船一般への理解を深めるという点ではいかがでしょうか、。「カラスのアレ(どれ?‏@uranoise」さんがおっしゃるようなあたりにも、目を向けていただきたいものですね。

しかし、河上の競争といえばレガッタ、ドラゴンボートと、競技艇のそれは現在でも盛んであるものの、無骨そのものの艀たちが、棹を差し、艪をこねて力走した熱い時代があったとは! 川蒸気や高瀬舟と同時代の川景色に、新たなイメージが加わって、楽しくなったものでした。

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タグ : 明治百年東京はしけ物語 曳船 隅田川

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