水郷の踏み車

今回のお散歩は、とても残念なことから始まりました。一見のんびりとした水郷といえど、時の流れとは無縁ではないのだなあ、ということを、改めて感じさせられたものです。
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●サッパ巡りをしようと、十六島は与田浦畔、おなじみ中洲船頭組合を訪ねてみると、あらら‥‥船影はおろか人影もなし。
年末年始でもなし、まだまだ水路行にはよい季節なのに、お休みとは変ですね。
【撮影地点のMapion地図】

●待合所や出札所の中をのぞき込んでみると、どうも、ここしばらく人が寄り付いた形跡がなさそう。
そういえば、駐車場にも一台のクルマも見当たりませんでした。う~ん、もしや廃業? おばちゃん船頭たちの元気な呼び声も、もう聞けないのかと、ガックリ来ていたら‥‥。

●隣接した水郷佐原水生植物園の前には、ご覧の看板が。工事のため、来年3月まで休業とのこと。なるほど、これではお客さんも集まらないでしょう。
これに合わせるかたちで、船頭さんたちも休業したというわけか、と一人勝手に納得しました。

●せっかく来たのだからと、旧大利根博物館(現・千葉県中央博物館大利根分館)へ。いつの間にか、入場無料になっていました。
こちらも閑散としていましたが、他の見学者も数組あったのが救い。パンフレットをいただき、ありがたく拝観しました。

●やはり展示の中でも圧巻は、中央の展示室にある高瀬舟の大型模型。写真のような、魅力的な川汽船の模型もあります。なぜか、通運丸の模型が見られなくなっていましたが、どこかへ貸し出したのか、それとも見落としたのか‥‥。
帰り際、受付で図録などを求めがてら、船頭組合や水生植物園についてうかがったところ、快く答えて下さいました。以下は学芸員の方に伺ったお話を要約したものです。
・水生植物園は北側にある廃墟(保養所跡?)を取り壊し、現在の倍近くまで大規模な拡張工事をするので、かなりの長期間休園を余儀なくされている。
・船頭組合は、お客さんが減ってきたのと、船頭さんの高齢化など人手不足も手伝い、ほぼ休業状態。ただ廃業したのではなく、電話予約すれば舟を出してくれる。

●学芸員の方にお礼をいって博物館を出ながら、何とも寂しい気持ちになりました。ある意味水郷名物でもあった、船頭さんたちの賑やかな呼び声も、十六島の中に限っていえば、いよいよ終焉を迎えたというわけでしょうか。この数年間、折りにふれて十六島を訪ねては、当たり前のようにサッパ観光を楽しませてもらっていただけに、寂しさもひとしおでした。
上の写真は、屋外に展示されている旧附洲排水機場の排水機。昭和17年に、初めて十六島に備えられた排水機場のポンプで、このおかげで大きな水害から逃れられるようになったという、記念すべき排水機です。

●何気なく吐口をのぞいてみると、おや、生きのいいカマキリ君がぶら下がって、ちきちきと格子を登っていました。

●芝生の上には、これまた元気なカエル君が、ピョンピョンとお散歩中。生き物たちと十六島の静けさに、癒された気持ちになったものです。
ちなみに、博物館周囲の庭園には池もあり、鯉に餌(受付で売っています)をやることもできます。きれいなベンチやテーブルもあるので、お弁当を広げるにはもってこいでしょう。

●博物館でお話をうかがった際、私の顔があまりにがっかりしたように見えたのか、学芸員の方が「コスモス祭り」に行ってみたら、と勧めてくださいました。きけば、十二橋駅のすぐ近くとのこと。ご案内、ありがとうございました!
というわけで、気を取り直して「コスモス祭り」へ。十二橋駅から与田浦をはさんだ南側が会場で、こちらは多くのクルマで賑わっていました。
【撮影地点のMapion地図】

●写真がまずいので、いま一つ素晴らしさが伝えきれないのですが、一面のコスモス畑は圧巻で、花にうとい船頭にも感動もの。しかも、花を摘んで帰ってもよいとのこと。花畑の向こうにダーッと、高架線が走っているのもいいですね!
入場・駐車は無料で、受付のテントで住所・氏名を書くだけでよく、新鮮な野菜やおこわ、アイスクリームの直売もありました。

●ううむ、サッパ巡りもあったのか‥‥。ちょっと訪ねる時間が遅かったようですね。
個人的には、与田浦の真ん中へんを出発点とするのだし、浪逆浦閘門(『浪逆浦閘門…1』ほか参照)を通るコースがあればいいなあ、と妄想。

●ひとしきり会場内をウロウロして、目に入ったのが‥‥。
これは!

●踏み車! 昔、農作業で使われていた、足踏み式の揚水水車だ!
以前、水生植物園でも復元されたものを見たことがあります(『あやめ祭りの水郷風景…1』参照)。様子から察するに、自分で動かして体験できるのかな? ゼヒやってみたい!

●思った通りで、来場した家族づれが、こわごわ上ってはおぼつかない足取りで踏んで、水音に歓声を上げています。おおお!
ちなみに、左の少年が「踏み車担当指導係」で、体験の前に見事な模範演技(?)を見せてくれて、上がってからも冷静かつ的確な指導をしてくれます。きっと、学校や地域で、子供たちに伝承されているのでしょう、素晴らしいことだと思いました。

●体験する前に、ディテールを検分。軸近くに備えられた「エ」の字形のものは、上に上がるための踏み段です。
写真左が吐口で、吐口側に傾かせた姿勢が常態のため、踏み段も、それに合わせて取り付けられているのが興味深いですね。板の合わせ目の水密はどうでしょう、木造和船同様、「木殺し」や、マキハダを詰めるなどの技法が使われたのでしょうか。

●羽板とスポーク。人が乗って動かすものなので、もっと頑丈そうなものを想像していたのですが、意外に華奢で線が細い印象です。精度が能率に直結した農具だけに、唐箕と同じく、造り手には高い技能が求められたに違いありません。
線の細いのは、極力軽量化をはからねばならなかった、ということで納得がいきました。水郷、特に十六島の田んぼは、各田に高低差がなく、おのおのクロ(あぜ)で仕切られ、独立した湿田です。田んぼ一つ一つに、それぞれ給水が必要で、踏み車はサッパに乗せられて、田ごとの移動を繰り返さなければなりませんでした。できるだけ軽く造らねばならなかったゆえんであります。

●さて、指導係少年にご挨拶してから、嬉々として踏み車の上へ!
最初はへっぴり腰のおよび腰、体重のかけ方が塩梅できず、回転に同調して落ちそうで、いま一つでしたが‥‥。

●要領を得てからは、揚水速度を加速し、ザブン、ザブンと吐きだす水音を楽しむ余裕さえできました。いや~、楽しい! 気分はもう川蒸気!
指導係少年からも、「初めてにしては、とっても上手ですねえ!」とおほめの言葉を頂戴し、にわかの回し手としては意気天を衝く思い!

●熟練者であれば、体重とわずかな筋力だけで上手に回すすべを心得ているのでしょうが、こちらは何分にわか、調子に乗って全力で揚水にいそしんでいたら、腰に来てしまいました(泣)。
指導係くんにお礼をいって、腰をさすりながら体験終了。ホンモノの外輪を見た後に、水車を回すことができるとは、何やら奇なる縁を感じずにはおれませなんだ(無理やりこじつけてみました)。

●折から、十二橋駅を出た上り電車が、さえぎるもののない高架の上を滑ってゆくのが見えました。船頭さんたちに会えなかったのは、寂しさを禁じ得ませんでしたが、踏み車体験とお花畑のお陰で、だいぶ元気を取り戻した思いがしたものです。ありがとうございました!
(26年10月12日撮影)
(この項おわり)

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