江戸時代の彩色川舟図鑑「船鑑」に涙する

●船鑑(ふなかがみ)
川名登 著
A4横判 並製本 本文92ページ
2013年2月 船の科学館発行
●昨年、それも前半に発行された本で、今さらの感もありますが、遅ればせながら紹介させてください。川舟たち、それも大水運時代といってよい、全盛期のフネブネのイメージを追い求める船頭としては、待望の一冊だったからです。
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●何しろ、月刊「世界の艦船」2013年5月号(3月25日発行)のブックガイド欄で発売を知ったときは、飛び上がらんばかりの嬉しさで、まさに横っ跳びに、船の科学館ミニ展示場へひとっ走り。係の方にきいてみると、カウンターにはまだ見本しかない状態。わざわざ本館から手持ち分を出してもらい、「どこで知ったのですか?」といぶかしがられる始末でした。
●そういえば「世界の艦船」掲載の書影は、カバーのない表紙を撮影したもので、絵柄の全くない、「船鑑」とタイトルだけが黒々と書かれているという、ちょっと異様なものでしたっけ。奥付の発行は2月となっているものの、何らかの理由で、カバーの印刷・加工が間に合わなかったのでしょうね。
●個人的ないきさつはさておき、河川舟運史、特に和船の活躍する、江戸~明治期のそれを扱った本には、必ずといっていいほど図版や諸元が引用されるので、書名をご存知の方も少なくないでしょう。
●それほど知られた存在ながら、今までは一隻づつの引用か、複数が掲載されても小さな図版で一覧的なものにとどまり、個人的にも「全貌を思うさま眺められないものかなあ」と、もどかしい思いをさせられたものでした。
●それがついに、一冊の資料集としてまとめられたのです! それも、原書の美しさをできる限り再現できるよう、見ごたえにも充分に配慮された印刷・造本の図集として!
●内容を簡単にまとめると、「江戸時代に関東の川を行き来した船を網羅した、細密彩色絵図集」ということになりましょうか。高瀬舟や艜(ひらた)舟といった、河川や湖沼専門の船はもちろん、五大力や押送舟などの、湾内や近海から川に入ってくる海船まで、とにかく川を走るフネブネを、外観はもとより各部寸法まで記録した、一大「川舟図鑑」なのです。
●この「船鑑」、川をゆくフネブネから租税を徴収するための資料として、享和2(1802)年に編まれたそうです。公儀のお声掛かりで作成された、いわば公的文献なのですね。史料として信頼され、関連文献に盛んに引用されてきたのも、むべなるかなでしょう。編著者は河川舟運研究家として知られる、一昨年逝去された川名登氏。
●4色印刷ページに収録隻数は、実に33隻。巻末は43ページを費やして、川名氏による詳細な解説と、各船の一色刷り縮小図に各部名称を付した、「諸船船図」が一章を設けられ、川舟の事典として、初心者の理解を助けています。
●特筆したいのは、33隻中16隻の図版が、二つ折~三つ折の引き出し方式とされ、全長のある舟も、無理なく細部を鑑賞できるよう、配慮されていることです。造本する上で手間がかかるにもかかわらず、原本の迫力をできるだけ伝えようとされた、関係者の努力が感じられ、頭が下がったことでした。
(そういった意味でも、船の科学館サイトのPDFでなしに、実際の本を手に取ってほしいと願うものです!)
●いや、しかし、徴税のためとはいえ、ここまで美しく、細をうがって描かれた図録を台帳として作成し、写本して引き継ぎつづけた原動力は、那辺にあったのでしょうか? 作成を命じた部署の人が、単に職務に忠実で、後任者に引き継いでゆくにあたって、よりわかりやすい方法を取った、という見方もできましょう。
●それなら、淀川水系ほかの川舟図集や、菱垣廻船などの「海船図集」があっても、よさそうなものです。課税の対象になったかは知りませんが、駕籠や大八車はどうなんでしょうね(もしあったらごめんなさい)。なぜ、関東だけに? ‥‥まさか関東には、川船が好きなお役人や、絵師さんがいたのでは? ‥‥と、あらぬ勘ぐりをさせてしまうような、濃厚な近代風味を感じさせてしまう雰囲気があるのです。
●素人の妄言はさておいて、史料としての希少さはもとより、眺めているだけでも長く楽しめる美麗な図集として、本当に価値のある本だと断言できます。川名氏はじめ関係者の方々、そしてこの図集を遺してくれた、江戸時代の川舟役所の方々に、川舟ファンとして心から敬意を表したいと思います。

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●そういえば「世界の艦船」掲載の書影は、カバーのない表紙を撮影したもので、絵柄の全くない、「船鑑」とタイトルだけが黒々と書かれているという、ちょっと異様なものでしたっけ。奥付の発行は2月となっているものの、何らかの理由で、カバーの印刷・加工が間に合わなかったのでしょうね。
●個人的ないきさつはさておき、河川舟運史、特に和船の活躍する、江戸~明治期のそれを扱った本には、必ずといっていいほど図版や諸元が引用されるので、書名をご存知の方も少なくないでしょう。
●それほど知られた存在ながら、今までは一隻づつの引用か、複数が掲載されても小さな図版で一覧的なものにとどまり、個人的にも「全貌を思うさま眺められないものかなあ」と、もどかしい思いをさせられたものでした。
●それがついに、一冊の資料集としてまとめられたのです! それも、原書の美しさをできる限り再現できるよう、見ごたえにも充分に配慮された印刷・造本の図集として!
●内容を簡単にまとめると、「江戸時代に関東の川を行き来した船を網羅した、細密彩色絵図集」ということになりましょうか。高瀬舟や艜(ひらた)舟といった、河川や湖沼専門の船はもちろん、五大力や押送舟などの、湾内や近海から川に入ってくる海船まで、とにかく川を走るフネブネを、外観はもとより各部寸法まで記録した、一大「川舟図鑑」なのです。
●この「船鑑」、川をゆくフネブネから租税を徴収するための資料として、享和2(1802)年に編まれたそうです。公儀のお声掛かりで作成された、いわば公的文献なのですね。史料として信頼され、関連文献に盛んに引用されてきたのも、むべなるかなでしょう。編著者は河川舟運研究家として知られる、一昨年逝去された川名登氏。
●4色印刷ページに収録隻数は、実に33隻。巻末は43ページを費やして、川名氏による詳細な解説と、各船の一色刷り縮小図に各部名称を付した、「諸船船図」が一章を設けられ、川舟の事典として、初心者の理解を助けています。
●特筆したいのは、33隻中16隻の図版が、二つ折~三つ折の引き出し方式とされ、全長のある舟も、無理なく細部を鑑賞できるよう、配慮されていることです。造本する上で手間がかかるにもかかわらず、原本の迫力をできるだけ伝えようとされた、関係者の努力が感じられ、頭が下がったことでした。
(そういった意味でも、船の科学館サイトのPDFでなしに、実際の本を手に取ってほしいと願うものです!)
●いや、しかし、徴税のためとはいえ、ここまで美しく、細をうがって描かれた図録を台帳として作成し、写本して引き継ぎつづけた原動力は、那辺にあったのでしょうか? 作成を命じた部署の人が、単に職務に忠実で、後任者に引き継いでゆくにあたって、よりわかりやすい方法を取った、という見方もできましょう。
●それなら、淀川水系ほかの川舟図集や、菱垣廻船などの「海船図集」があっても、よさそうなものです。課税の対象になったかは知りませんが、駕籠や大八車はどうなんでしょうね(もしあったらごめんなさい)。なぜ、関東だけに? ‥‥まさか関東には、川船が好きなお役人や、絵師さんがいたのでは? ‥‥と、あらぬ勘ぐりをさせてしまうような、濃厚な近代風味を感じさせてしまう雰囲気があるのです。
●素人の妄言はさておいて、史料としての希少さはもとより、眺めているだけでも長く楽しめる美麗な図集として、本当に価値のある本だと断言できます。川名氏はじめ関係者の方々、そしてこの図集を遺してくれた、江戸時代の川舟役所の方々に、川舟ファンとして心から敬意を表したいと思います。

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