木造漁船で楽しむボートライフ「海のロシナンテ」

海のロシナンテ 

宮原昭夫
集英社文庫  
256ページ
昭和58年8月25日 第一刷


ずいぶん昔に愛読した本ですが、最近本棚から引っ張り出して、久しぶりに読みふけったのを機会に、ご紹介したいと思います。作家・宮原昭夫氏が、仲間とともに小さな中古の漁船を買ったことから始まる、珍にして妙なボートライフをつづったエッセイです。

私が手にしたのは高校生のころ、写真の昭和58年発行になる文庫版ですが、原著は昭和50年に出されたそうですから、書かれた内容はもう37年も昔のお話になるのですね。

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お話は宮原氏が、小型船舶免許の講習を受講する描写から始まるのですが、4日間という実技講習の日数や、「目下受講ちゅうの船舶職員法の条文を隅から隅まで何度読み返してみても、われわれの船に該当する項目がいっこうに見当たらない」という下りからして、取ろうとしている免許は3級(20t未満5浬以内)と思われました。

つまり、最近まで小型船舶免許としてポピュラーだった4級(5t未満5浬以内)が設定される以前のお話なわけで、このあたり時代を感じさせ、いまとなっては貴重な記録に思えます。

「エッチ・トゥー・オー本来の液体的特性を放棄してしまって、まるで船体が岩山の頂上を引きずられて行くように、ガツン、ドガッ、バカッ」と、高速航行時の波頭を跳ねる硬い衝撃の恐ろしさを述べ、落水者救助の所作がうまくいかないもどかしさなど、いちいち細かくかつ大げさな描写に笑いを誘われつつも、未知の領域に挑戦する、宮原氏の緊張ぶりが伝わってきました。

免許取得のための教本には、その手順以上のものはまず書かれないであろう、このあたりの下りを繰り返し読んだことで、少しは心構えができたのでしょうか、その後教習を受けるにあたり、ずいぶん気が楽になったものでした。

何より興味をそそられたのは、お仲間と共同オーナーの一人となって手に入れた艇が、FRPモーターボートなどではなく、スパンカーや垣立て、それに釣り舵を備えた、古式ゆかしい(?)船内機つきの木造和式漁船だということ。

乗り物の絵には定評のある、ヒサクニヒコ氏のカバー画や本文挿画の佳さも手伝って、その魅力は余さず伝わってくるといっていいでしょう。いや、正直にいえば、漁船のカバー画に惹かれて手に取ったのであり、また、漁船が趣味の遊びブネとして活躍する、という他にないシチュエーションは、純和船や鋼船といった、ちょっと変わったフネに乗ってみたい、と妄想していた当時の自分(今でも!)にとって、実に、実に魅力的に映ったものでした。

(ちなみに、艪も積んであったことは、本文中でチラリと触れられているのですけれど、艪を漕ぐシーンは出てきませんでした。惜しいことです!)

加えて、マリーナに艇を預けるなどということはせず、皆で資材を持ち寄って河川繋留をする下りもまた、野趣にあふれた感じで、子供心にそそられたものでした。もっともこれは、宮原氏のお宅と川が2~300mしか離れていない、ということが大きかったようですが…。

ただ、それがため、川が増水するたびに再三の浸水・沈没(!)に見舞われ、後にはすっかり沈没→浮揚の手順が確立させてしまう(!!)ほどになり、河口の浅瀬では舵を触洲させてヒン曲げたり、上流から流れてくるゴミが引っかかって島のようになったりと、あまりいいことがありません。

さらに、貴重なアンカーをロープをつけずに投錨してしまったり、酔った勢いで出港した仲間は、相模湾の真ん中で燃料切れし立ち往生、あわや漂流か……と、全体的にネタの宝庫(失礼)というか、失敗談のオンパレードで、そのたびに愛船は壊れてゆくありさま。

この素人船主ゆえの失敗を、面白おかしく描写する下りが、ある種この本の千両でもあるのですが、後にボート初心者の仲間入りをしてからは、似たような失敗をした経験(沈没させてはおりませんぞ)もあって、読み返すたびに身につまされたものでした。

さて作中で、宮原氏とお仲間の皆さんは、小漁船「ロシナンテ1号」1隻に飽き足らず、ヨット「ロシナンテ2号」を購入、さらには漁船をもう1隻船隊に加えてしまうという、急速な拡充ぶりを見せるのですが、新艇就航のあおりを喰らってか、「ロシナンテ1号」は次第にかえりみられなくなり、川の大増水時に陸へ打ち上げられたりしてさらに傷つき、果ては半沈状態のまま再起できず、最期を迎えてしまいます。

今読むと、艇の扱いがあまりにもぞんざいさだと、問題になりそうなお話ではありますが、壊れた「ロシナンテ1号」を貰い受けたいという「メシア氏」が現れたり、サルベージを試みた後、沈没状態の艇を囲んでお別れの宴が催されたりと、救いのあるラストであるのが印象的でした。沈んでも放置され、最期を見取ってもらえない廃艇も少なくない中、就航わずか1年半ほどだったとはいえ、「ロシナンテ1号」は、むしろ幸せだったといえるかもしれません。

ともあれ、まったく経験のない人が免許を取って艇を購入し、保管や維持の苦労話などもろもろを含めて、この趣味にハマッていくまでを書いた本というのは、今も大変少ないように思えます。

この手の世界を描いた本は、初心者のための教本や、艤装や航海、あるいは釣りに関するハウツーものをのぞくと、後は一足飛びに、ヨットマンの冒険記になってしまうように見受けられるからです。

そのまん中を取った本というか、もう少し気楽にフネと接したいと思う人に、ある意味ライトな舟遊びのスタイルを示す書物というのは、狭い世界というのもあるのでしょうか、なかなか成立しがたいものがあるようですね(もしあったら、ごめんなさいです)。

宮原氏の軽妙な文体と内容の面白さにぐいぐい引き込まれ、この本を読みふけりながら、まだ見ぬ我が舟路へ思いをはせた子供のころが思い出され、懐かしくなりました。

う~ん、読み返しているうちに、旧母港である三浦のことも、あれこれ思い出されてきたなあ…。私の舟遊びのそもそもをはぐくみ、さまざまな経験をさせてくれた、いわば揺籃の地であるあの入り江。
今の艇に乗ってからも、一度だけですが東京湾を縦断し「里帰り」したことがあるのですよ。それも含めて、近々触れてみたいと思います。

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