利根川高瀬舟の写真四題

94001.jpg関東の水運時代を支えた、代表的大型川舟である利根川高瀬舟。「高瀬舟の写真があった!」でも絵葉書を一枚紹介しましたが、川風に白帆を上げて快走する姿をもっと見てみたい、と願っていたところ、天に祈りが通じたのか、素敵な絵葉書を何枚か入手することができました。

今回はその中から4枚、江戸川と利根川、また常陸利根川に白帆を映す高瀬舟の艶姿を、ご覧に入れようと思います。うち3枚は「写真集・利根川高瀬船」(千葉県立大大利根博物館刊・過去ログ『関宿城博物館で購入した書籍』参照)にも掲載されていたものですので、ご存知の方も多いでしょう。

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利根の風景 潮來の歸帆
宛名・通信欄比率1:1、大正7年4月以降の発行、「角菱旅館発行」の銘あり。

詰め開き(横風帆走で風を受けるため、帆を一杯に開くこと)に掲げた帆が、静かな水面に影を落とす、胸のすくような川景色です。高く反り上がった船首尾や、舵の羽板など高瀬舟らしい細部が見て取れ、2隻とも戸立て造りらしい端舟を曳き、舵の座と船首付近に各一人づつ船頭の姿も見られるなど、興味が尽きません。

画面右端に写っている、黒い煙突を立てた汽船も気になりますね。角度がよくないので素性は判然としませんが、見た限りでは暗車(スクリュー)式で、曳船のように思えます。

「写真集・利根川高瀬船」では、「牛堀より霞ヶ浦方面を望む(牛堀町・大正9年)」とのタイトルをつけて紹介されていました。絵葉書のキャプションと異なり、また大正9年なる撮影年の根拠もわかりません。いずれにせよ、川は常陸利根川で、写真奥は霞ケ浦方向、高瀬舟はほぼ北側から風を受けていることになります。

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茨木取手名所 刀根川の景
宛名・通信欄比率2:1、明治40年4月~大正7年3月の発行。

こちらは利根本流をゆく高瀬舟2隻。バックは常磐線の利根川橋梁でしょうか、トラスや船上の人影とくらべても、高瀬舟の帆の巨大さが実感できます。もちろん、このままでは橋につかえてしまいますから、縮帆し、帆柱を倒してから竿や艪で通過するのでしょう。右の舟上にも、縮帆の作業をしているとおぼしき船頭が2人見えます。

右上に押された「茨城・取手」の消印、この辺は詳しくないのではっきりしたことはいえませんが、大正13年10月2日としてよいでしょうか。これが昭和だと、発行から使用に至るまで、ちょっと時間が経ちすぎているように思えます。

「写真集・利根川高瀬船」にも「常磐線鉄橋と高瀬船(取手市・大正期)」として紹介されています。また、同書の表紙に掲げられているところから見ても、特に印象深い写真だったようですね。

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(日本名所)市川の歸帆
宛名・通信欄比率2:1。明治40年4月~大正7年3月の発行。
「東京芝愛宕町長嶋萬集堂製」の銘あり。

江戸川下流部の名勝、国府台の緑を背景に下る高瀬舟たちをとらえた、手彩色絵葉書です。ご覧のとおり、右上にヤブレが数か所あるのが惜しいのですが、手彩色の美しさはそれを補って余りあり、また経年による退色が、何ともいえない味わいを醸し出しているのも惹かれる点です。

左端の高瀬舟は、荷を高々と積み上げており、帆もそれに合わせて、下端を短く切り取ったものを用いている点が目を引きますね。荷姿は判然としませんが、荷のカサにくらべて喫水の浅いことから、空き樽など軽いものではないでしょうか。荷の船首側には、竿をさす船頭の姿も見えます。左から2隻目の小型舟は、船型から高瀬舟ではないでしょう。

ピントが甘いのか、はたまた彩色による絵柄のツブレがあるのか、ディテールを楽しむという点では少し難がある絵葉書ですが、国府台の緑をバックに輝く白帆、船体の白木の色のコントラストも素晴らしく、お気に入りの一枚。修正したものをタイトルに掲げようと思っています。

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(市川名所)鴻之臺公園ヨリ江戸川ヲ望ム
宛名・通信欄比率1:1。大正7年4月以降の発行。

「鴻之臺」はコウノダイと読み、いうまでもなく国府台の旧称。大河を高所から俯瞰できる、東京近郊では数少ない場所から、これまた貴重極まりないベストショットを残してくれたカメラマンに、心から感謝したくなります。「写真集・利根川高瀬船」に掲載のものを目にしてから、あこがれの一枚といってもよいものだっただけに、出会えたときには、小躍りしたくなったものです!

こんな地味で、木の枝を透かして見たような写真がどうして…と、思われる向きもあるかもしれません。しかし、このように多数の河用帆船が遡上する姿をいちどきに、しかも俯瞰でとらえた写真というだけでも希少で、国内ではまず他にないのではないでしょうか。さらに、川舟に限らず、帆船の運用を活写したという点から見ても、史料として素晴らしすぎる一枚であるといって、いい過ぎではありません。

どの舟も、順風に帆をはちきれんばかりにふくらませて遡上(写真右手が川上)しています。なぜ、これだけの数の舟が一団となって遡っているかといえば、河岸に竿を突いて風待ちしていたフネブネが、よい風を得たため、いっせいに帆を上げたからに他ならないでしょう。
待ちに待った南風、しかも一気に関宿まで押し上げてくれそうな強い風が吹いたとなれば、いままで無聊をかこっていた船頭たちも跳ね起きて、帆柱を立てて索具を整理したりと、それこそ戦争のような騒ぎだったに違いありません。この写真はそんな、帆船にとって最もダイナミックな瞬間をとらえた写真なのです!

「写真集・利根川高瀬船」では、「国府台公園からの遠望(市川市・大正期)」とタイトルがついており、キャプションには「かなり密な状態で航行しているが、これが平常時なのか特別な時なのか、残念ながら判然としない」とあって、ちょっとがっかりした記憶があります。ちなみに、写真手前に白く見える川のようなもの、もしかしたら坂川(『柳原水門の表情』参照)の旧流路でしょうか?


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タグ : 利根川高瀬舟 和船 江戸川 利根川 常陸利根川 絵葉書・古写真

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