浪花濃厚水路…13
(『浪花濃厚水路…12』のつづき)
●お次も有名な橋ですね、水晶橋…旧堂島川可動堰です。こちらも沈下が著しいのに加えて、満潮に向かう時間帯と来ては、少々哀れな感じがするのも致し方ないところですが、昭和4年竣工の風格は失われていません。
径間が短く、アーチリングの半径が小さいこともあって、船長さんからは「くぐる時、もしかしたらちょっと手すりがぶつかるかも知れませんが、大丈夫ですから気にしないでください!」と、異例のアナウンスが(笑)。イイぞ船長さん! 思わず外人ばりに「グッジョブ!」と親指を立ててしまったよ!

●接近しつつ、側面のディテールを堪能。柱に取り付けられた橋側灯、中の模様は何か意味があるのかしら…。中央2径間のアーチは、改修されて厚みが増しており、ちょっとバランスを欠いているのが残念。両岸沿いの径間のように、ツライチに近いほうがやはり、美しいですね。
径間中央、アーチの上には長方形の鉄板が貼られていますが、昔の写真を見ると、3灯式信号のようなものが取り付けられています。そういう形の装飾だったのか、または本当に、ゲート開閉を船に知らせるための信号灯だったのか…。ご存知の方、ご教示ください。
【撮影地点のMapion地図】
●ブレてしまいましたが、内部の構造を何とか撮影。
ご存知のように、つい最近(平成14年に撤去されたとのこと)まで、橋の中にはラジアルゲートが設備されていました。いや、橋の中と言うと逆になりますか、水門を橋に擬してあつらえた、と言った方が正しいでしょう。
内部は当然ながら空間が広く取られ、鉄骨を組んだ複雑な構造が、この橋が「水門」であったことをしのばせ、一人コーフンする船頭。
●こちらで使われていたラジアルゲートは、先ほど東横堀川・道頓堀川の2閘門で紹介した扉体とほぼ同じ構造で、軸を中心にして湾曲した扉を回転させる型式。写真左側、アーチの近くの柱に、曲線の戸溝が見えますが、あそこを通って扉が上下していたのですね。
●すり抜けてから振り返って。ゲート設備が撤去された今は、人道橋として再整備され、橋上には植え込みも設けられているようですね。
旧堂島川可動堰、景観重視型水門の成功例として、その手の本には必ず採り上げられる著名物件ですが…。見方を変えれば、橋という隠れ蓑で人目を忍んだ、言わば水門としては日陰者ですから、水門愛好家の皆さんの間では、好みが分かれるところもあろうと思います。
●まあ、水晶橋というオブラートでくるんだがゆえに、大阪市民からは長きに渡り愛されているのですから、この試みが大成功だったのは、間違いありますまい。国内では珍しい、変わり型の水門としても、長く記憶されるべき存在でしょう。

●堂島可動堰…水晶橋が竣工間もなかったころの、美しい姿を伝える絵葉書があったので、ご覧に入れましょう。まだ堤防がかさ上げされる前ですので、手前の径間からの連続した側面を楽しめます。
「大阪名所 ダム(可動堰)」と題されたこの絵葉書、キャプションが昔の大阪弁で書かれており、面白いので全文をご紹介します。
ここで川の流れを加減して水を淨めるのだす。大阪は水の都やけど川もほっといたらきたのうなってどむならんのでこんな立派なダムができたんだす。橋になってますさかいに人は渡れますが階段がおますので車は渡れまへん。
●そうそう、ひとつ気になっていたことがあったのだった…。
絵葉書にも「水を淨める」と書かれているように、堂島川可動堰をはじめとする、大阪市内の橋型(?)ラジアルゲート群が建設された目的は、その手の本を読んでも「河川の水質浄化のため」とありました。
ただし、肝心の水質浄化の方法については触れられておらず、長い間の謎だったのです。
「水門の開閉だけで、どうやって水をきれいにしているんだろう? もしかして、何門か閉めて流路を狭め、流速を早くするとか?」などと考えていたのですが、こうして訪ねたのもご縁と、例のごとく帰宅後に検索してみると…。
●…「淀川下流域の維持流量の変遷」なる、プレゼン資料のようなPDFがヒット。これの5ページ目「2.大阪市の発展と市内派川浄化用水の必要性」を読んで、ようやく長年の謎が解けました!
「可動堰の操作は、満潮時に堰を閉鎖して堰上流に水をため、干潮時に堰を解放して派川の流速を速め、汚濁をフラッシュするものであった。」
なるほど! 干潮時に一気に堰を開放することによって、言葉は悪いですが、ちょうど水洗トイレのように押し流す効果を狙ったものだったのですね。
●しかし、道頓堀川など、支派川の5つの可動堰群(6ページ『可動堰の概要』に、位置と詳細が掲載されています)と呼応して、連日ラジアルゲートがガンガン運転され、湛水と放流を繰り返していたなんて、想像するだに武者震いがする壮観じゃないですか!
水門というのは、閘門を別格として、非常時以外動かないことが普通なので、毎日運転される…しかも、複数同時に動き、その上溜めた水をドーッと放流するなんて! 血湧き肉躍る「動の水門風景」! 水門好きとしては、堪えられない眺めだったことでしょう。
(21年9月12日撮影)
(『浪花濃厚水路…14』につづく)

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径間が短く、アーチリングの半径が小さいこともあって、船長さんからは「くぐる時、もしかしたらちょっと手すりがぶつかるかも知れませんが、大丈夫ですから気にしないでください!」と、異例のアナウンスが(笑)。イイぞ船長さん! 思わず外人ばりに「グッジョブ!」と親指を立ててしまったよ!

●接近しつつ、側面のディテールを堪能。柱に取り付けられた橋側灯、中の模様は何か意味があるのかしら…。中央2径間のアーチは、改修されて厚みが増しており、ちょっとバランスを欠いているのが残念。両岸沿いの径間のように、ツライチに近いほうがやはり、美しいですね。
径間中央、アーチの上には長方形の鉄板が貼られていますが、昔の写真を見ると、3灯式信号のようなものが取り付けられています。そういう形の装飾だったのか、または本当に、ゲート開閉を船に知らせるための信号灯だったのか…。ご存知の方、ご教示ください。
【撮影地点のMapion地図】

ご存知のように、つい最近(平成14年に撤去されたとのこと)まで、橋の中にはラジアルゲートが設備されていました。いや、橋の中と言うと逆になりますか、水門を橋に擬してあつらえた、と言った方が正しいでしょう。
内部は当然ながら空間が広く取られ、鉄骨を組んだ複雑な構造が、この橋が「水門」であったことをしのばせ、一人コーフンする船頭。
●こちらで使われていたラジアルゲートは、先ほど東横堀川・道頓堀川の2閘門で紹介した扉体とほぼ同じ構造で、軸を中心にして湾曲した扉を回転させる型式。写真左側、アーチの近くの柱に、曲線の戸溝が見えますが、あそこを通って扉が上下していたのですね。

旧堂島川可動堰、景観重視型水門の成功例として、その手の本には必ず採り上げられる著名物件ですが…。見方を変えれば、橋という隠れ蓑で人目を忍んだ、言わば水門としては日陰者ですから、水門愛好家の皆さんの間では、好みが分かれるところもあろうと思います。
●まあ、水晶橋というオブラートでくるんだがゆえに、大阪市民からは長きに渡り愛されているのですから、この試みが大成功だったのは、間違いありますまい。国内では珍しい、変わり型の水門としても、長く記憶されるべき存在でしょう。

●堂島可動堰…水晶橋が竣工間もなかったころの、美しい姿を伝える絵葉書があったので、ご覧に入れましょう。まだ堤防がかさ上げされる前ですので、手前の径間からの連続した側面を楽しめます。
「大阪名所 ダム(可動堰)」と題されたこの絵葉書、キャプションが昔の大阪弁で書かれており、面白いので全文をご紹介します。
ここで川の流れを加減して水を淨めるのだす。大阪は水の都やけど川もほっといたらきたのうなってどむならんのでこんな立派なダムができたんだす。橋になってますさかいに人は渡れますが階段がおますので車は渡れまへん。
●そうそう、ひとつ気になっていたことがあったのだった…。
絵葉書にも「水を淨める」と書かれているように、堂島川可動堰をはじめとする、大阪市内の橋型(?)ラジアルゲート群が建設された目的は、その手の本を読んでも「河川の水質浄化のため」とありました。
ただし、肝心の水質浄化の方法については触れられておらず、長い間の謎だったのです。
「水門の開閉だけで、どうやって水をきれいにしているんだろう? もしかして、何門か閉めて流路を狭め、流速を早くするとか?」などと考えていたのですが、こうして訪ねたのもご縁と、例のごとく帰宅後に検索してみると…。
●…「淀川下流域の維持流量の変遷」なる、プレゼン資料のようなPDFがヒット。これの5ページ目「2.大阪市の発展と市内派川浄化用水の必要性」を読んで、ようやく長年の謎が解けました!
「可動堰の操作は、満潮時に堰を閉鎖して堰上流に水をため、干潮時に堰を解放して派川の流速を速め、汚濁をフラッシュするものであった。」
なるほど! 干潮時に一気に堰を開放することによって、言葉は悪いですが、ちょうど水洗トイレのように押し流す効果を狙ったものだったのですね。
●しかし、道頓堀川など、支派川の5つの可動堰群(6ページ『可動堰の概要』に、位置と詳細が掲載されています)と呼応して、連日ラジアルゲートがガンガン運転され、湛水と放流を繰り返していたなんて、想像するだに武者震いがする壮観じゃないですか!
水門というのは、閘門を別格として、非常時以外動かないことが普通なので、毎日運転される…しかも、複数同時に動き、その上溜めた水をドーッと放流するなんて! 血湧き肉躍る「動の水門風景」! 水門好きとしては、堪えられない眺めだったことでしょう。
(21年9月12日撮影)
(『浪花濃厚水路…14』につづく)

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