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戦前の水門絵葉書2題

しばらくぶりに、昔の絵葉書の話題とまいりましょう。奇しくも、ここに掲げた2つのゲートは廃止された後も撤去されず、記念物として現存しています。

昭和戦前から前の写真絵葉書で、ローラーゲートやスライドゲートのように、扉体が堰柱の間を上下するタイプの水門を題材にしたものは、あまり入手できていません。こういうタイプがそもそも少なかった時代ということもありますが、堰のような大規模な施設にくらべると、地味な存在でいわゆる写真映えがせず、絵葉書の題材としていま一つと見られたのでしょうか。単にご縁がないだけかもしれませんが。

278020.jpg
新釧路川取入口岩保木水門
宛名・通信欄比率1:1、大正7年4月以降の発行。


装飾のない、この時代としては現代的な風貌の2径間ゲート。Wikipedia「岩保木水門」によると、岩保木は「いわぼっき」と読み、昭和6(1931)年8月の竣工。釧路湿原の端部に位置する、新旧の河道の境界に設けられた水門設備なのだそう。

写真を観察すると、堰柱手前側面に鉄筋が突き出しているなど、竣工間近ながら残工事もあることがうかがえますね。巻上機周りはむき出しで、人力操作のクランクが目を引きますが、これは上屋が未施工だったためで、ウェブ上に発表された現状の写真には、木造の巻上機室が見られます。

正確な各部の寸法やゲート型式など、諸元については資料がないので残念ながらわかりませんが、木造巻上機室の造作が魅力的だからでしょう、地元の方々からも近代遺構として愛されているように見受けられました。

278021.jpg
名古屋港第八號地貯木塲ニ設置セル閘門ノ光景
宛名・通信欄比率1:1、大正7年4月以降の発行。


チョコンと載っかった小屋のような巻上機室に、角のように突き出すラック、そのラックも扉体とイコライザー様の金具で結合されているという、強烈かつ変わり種の外観に一目ぼれして、もう反射的に購入したもの。

右上に営業所、出張所の案内があることから、このゲートを建造したメーカーの宣伝物であることは察しがついたものの、社名が入っていないのは「?」という感想でした。しかし、上中央に八号地貯木場の表記はあったので、そういえば記事があったな‥‥と本棚から「運河と閘門」を取り出してひも解いてみると、ありました。「船見閘門」という項目です。

「運河と閘門」の記事によると、ストーニーゲート、径間7m、閘室長約61m、閘室幅約16m、昭和2(1927)年竣工。

ゲート配置は点対称とあるので、同じ名古屋港にある「飛島木場の閘門…5」で紹介したものと、同様の仕様で造られた閘室なのでしょう。八号地貯木場は昭和43(1968)年廃止、貯木場西側と北側に2基あった閘門のうち、西側の八号地第一閘門のゲート1基のみが保存されたそう。

絵葉書のものが、第一・第二閘門どちらかは判別できません。しかしGoogleストリートビューで現存の第一閘門ゲートの片割れを東側から見たかぎりでは、銘板や梁の形状、側面のはしごや堰柱など構造も寸分の違いがないように思えます。

まあ、すべてのゲートが全く同じ形という可能性もあり、確かなことは申せませんが、もし現存のゲートであれば、貯木場側から撮ったものということになるでしょう。

さて、表面に記載がなく気になるメーカー名です。梁の正面に掲げられた、アーチ状に抜いた瀟洒な銘板を拡大してみると、どうやら「山本工務所」と読めるように思えました。山本工務所なら、「名古屋港跳上橋」(Wikipedia)に代表される可動橋の第一人者、山本卯太郎が立ち上げたメーカーで間違いありません。

船見閘門」(名古屋市)にも、設計は「名古屋港跳上橋と同じ山本卯太郎」とあり、有名な技術者の手によるゲート設備であることが、保存に力あったことをうかがわせるものがありました。

Wikipedia「山本卯太郎」を読んでいたら、昭和4年5月、山本工務所の本社機能を、本宅の東京芝公園から大阪の此花区春日出町に移した、とありました。とすると、この絵葉書はその告知とともに、施工した水門設備の宣伝も兼ねて配布したものかもしれません。

堰柱右側基部に立つ、背広にカンカン帽の人物は、もしかしたら山本卯太郎本人なのかも‥‥。閘門とともにある「可動橋王」! 容貌魁偉(?)なゲートに惹かれて入手した一枚の写真から、楽しい妄想が広がってゆくのでありました。


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タグ : 岩保木水門船見閘門閘門新釧路川名古屋港絵葉書・古写真

ガーデン埠頭にて

(『飛島木場の閘門…7』のつづき)

206175.jpg戦前の中川運河をしのんで」でも触れましたが、閘門・水門めぐりを終えた後は名古屋港ガーデン埠頭を訪ね、遅い昼食も兼ねてゆっくりすることにしました。

ご存知のように、海事・港湾関連の見どころがまとまっており、フネ好きには楽しいところです。拝見したものの中から、いくつかピックアップしてみました。

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タグ : 中川運河名古屋港ガーデン埠頭砕氷艦和船警備艇