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外輪を見ていた午後…6

(『外輪を見ていた午後…5』のつづき)

以下覚え書き的に、「ミシガン」で実運用されている船尾外輪を見ての感想というか、思い浮かんだあれこれを垂れ流させていただきます。

ご存知のように、国内の外輪汽船はその多くが、船体ほぼ中央の両舷側に設けられたタイプのもので、「ミシガン」のような船尾外輪は普及しませんでした。下に掲げた昭和戦前の絵葉書のように、旧満州など、日本の勢力圏下にあった外地の大河では見られたようですが、内地での採用例がきわめて乏しかったのは、なぜでしょうか。

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外輪という推進器は、喫水が浅くて済み、水線下に軸穴を開けずともよく工作がしやすい、初動からダッシュがきくなど、特に内水航路の船にとっては、多くの長所を持っています。

反面、かさ高で水面上に大部分が出ているため、機関を含めたレイアウトに制限が多い、波浪や浮流物で損傷しやすい、騒音が大きいなどの短所があり、スクリュープロペラの改良が進むと、その座を明け渡すこととなりました。

短所の中でも大きかったのが、やはり、ちょっとしたことで壊れやすい、ということではなかったでしょうか。特に小型の川汽船など、流木でも衝突したら一発で、大雨の後などはずいぶん悩まされたものと思われます。

たびたび引用している、「通運丸と黒田船長」(筑波書林)にも、波浪時の空回りなどで外輪が損傷したときの、修理の苦労が語られていました。カバーを外し、外輪を軸から抜いて修繕なり交換をするというのは、吊り上げ設備のない場所では、さぞ大変なことだったでしょう。

その点ケーシングもなく、外輪へのアクセスが容易な船尾外輪は、舷側外輪にくらべて、短所を補って余りある利点があったように、素人考えでは思えたのですが。

舷側外輪とくらべての、船尾外輪のマイナス点を挙げるとすれば、全長が長くなるというあたりでしょうか。舷側のそれが、機関・罐室の真横に並列できるのに対し、船尾のそれはいわば直列で、同じ容積を保とうとすると、外輪の分船体が長くなり、狭い水路では取り回しに難が出てきます。容積は甲板室を多層にすれば解決できるものの、橋のある街場の水路を通るとなれば、それも難しいでしょう。

あと、曳航がやりにくそう、というのもあったかもしれません。上の絵葉書のそれのように、外輪周りに曳索がからまぬようガードをとりつけ、上甲板から曳索を伸ばすようにすれば可能ではあります。ただ、やはり船尾に回廊があるタイプにくらべ、素人目にも使い勝手が悪そうではありますね。

まあ、フタを開けてみると、単に初の国産船が舷側外輪で、それを模倣して同様のタイプが増えていっただけ、といったあたりが真相のような気もするのですが‥‥。勝手にあれこれ妄想を広げてみたお粗末であります。

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二回目の寄港地で、停止した外輪を眺めていると‥‥あらら、藻がごっそりとからんでいますね。スクリューだったら、下手をしたら動けなくなっているところで、木っ端ブネ乗りとしては気味のいいものではありません。このくらいで済むのも、外輪の良いところではあるのでしょう。

大津港内を含めて、沿岸には何ヶ所か藻が群生しているところが見られました。水深が浅いところもあるのかな、と思っていたら、案内の放送によると、湖南水域には4m程度のところが多いとのこと。浅喫水船、外輪船がその長所を遺憾なく発揮できるフィールドなんだと、ちょっとした感動がありました。

159106.jpg初めから終わりまで、ほぼ外輪漬けだったので、他の船内はほとんど見ていないというていたらく。操舵室くらい見学しておけばよかったなあと後悔したのですが、すべては後の祭りであります。

3層目のステージでは、航行中ずっとライブショーが催されており、曲の合間にクイズや観光案内、お土産がもらえるお子さんたちの参加コーナーもあるなど、大入り満員の盛況。皆さんノリノリで楽しそうでした。

159107.jpg船首錨甲板に行ってみると、黒光りしたごついストックアンカーが、二つ鎮座していました。ダミイのアンカーデリックやマストが所狭しと並んでいるので、あまり視界は良くありませんが、浅喫水船特有の水面の近さが感じられて、やはり嬉しいものがありますね。

ステージからのアナウンスで、間もなく大津港とのお知らせが。ほぼ外輪を眺めることだけに費やした楽しい時間も、終わりが近づいてきました。

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大津港の防波堤では、先ほども見た大噴水が放水中でした。防波堤をかわしたところで振り返ると‥‥おお、キレイな虹が何重にも! 皆さん歓声を上げて、いっせいにカメラ(いや、スマホですね)を構えていました。

(26年9月21日撮影)

(この項おわり)

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タグ : 琵琶湖琵琶湖汽船ミシガン川蒸気船絵葉書・古写真

外輪を見ていた午後…5

(『外輪を見ていた午後…4』のつづき)

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いや~‥‥
水しぶきがもろにかかるほどの間近で、旋転する外輪を眺められるこの充実感!

入口には確か、「水しぶきがかかりますのでご注意ください」といった注意書きがあったと思うのですが、濡れネズミ上等! ニヤつきながら柵に張り付いて、服全体がしっとりしてしまうほどでした。

ダミイのロッド周りが取り外されたのを知ったときは、ちょっと残念に思っていたのですが、このサービスでそんな気持ちも一気に吹き飛びました。琵琶湖汽船は、「ミシガン」の魅力の一つが外輪そのものであることを、当たり前ですがわかりすぎるほどわかっていたのです!

159100.jpg足元に目を落とせば、外輪の軸受と駆動部分が、手に触れんばかりの距離に。

がっしりとしたメタル、軸受に向かう給油系らしいフレキシブルパイプは、単なるお飾りなどではない、実際に動力が伝わっている、何よりの証し!

半円形の白いケーシングは、最終段のギヤかスプロケットを収めていると思われますが、伝達方法はどのようなものなのでしょう。

船のご紹介・ミシガン」によれば、主機は350ps×2機で、「2軸で1つのパドルを駆動さす希少な構造」とありますから、両舷機の推進軸がそれぞれ、パドルの両側に動力を伝えているということでしょうか。間に流体継手でもかましているのかもしれません。

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あまり人が来ないのをいいことに、特等席(船頭的に)で呆けていたら、突然外輪がピタリ、と停止。どうやら次の寄港地に着いたようですね。

心地よい喧騒に包まれていたのが、いきなりシーンと静まり返ったので、逆に妙な感じです。こちらも少し冷静になって、外輪のディテールを観察してみる気に。

まず、パドルは分厚な、継ぎ目のない一枚板のようです。面白く思ったのはスポークへの取り付け方で、スポーク1本につきカマボコのような半割り棒材を当て木にして、それを鋼線4本で巻くようにし、ナット留めしているというもの。

パドルを直接ボルトで締めるより、むらのある衝撃にも強そうですし、後進時に逆位で水をかくときの力のかかり方も、考えられているように見えました。

159102.jpg五組あるスポークとリムは、互いにアングルや帯材でつながれ、軸方向のストレスをパドルにかけない構造。

しかし、船尾式外輪って、パドルボックスに収めなければならない舷側式の外輪と違って、パドルの交換など、ちょっとした修理も比較的対応しやすそうですよね。

パドルと甲板室の間の水面をのぞきこんだのは、わけがあります。外輪が止まったことで水面が静穏になり、ここで初めて舵がうっすら見えるようになったから。写真では、かろうじて手前の一枚が見える程度ですが‥‥。

「ミシガン」の舵は3枚。喫水が浅く、速度も遅い内水大型船では、舵を多くして面積を稼ぎ、かつ舵効きを確保するやり方がよく見られたようで、いわば「川船らしさ」が感じられるパーツというわけ。暗車船ですが、戦前、大陸の長江などで活躍した、列強海軍の河用砲艦にも、3枚舵のものがありましたよね。

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離れゆく桟橋を「パドルウォッチ」から見送って。ええと、どこだったかな‥‥。いやもう本当に、外輪様にほぼすべてのエネルギーを吸い取られたので、他のことにほとんど関心が及びませなんだ。詳しくは琵琶湖汽船のご案内をどうぞ(ごめんなさい)。

離岸するとき、「さあ、外輪が逆に回るのを見られるぞ!」と、期待でハト胸になっていたら‥‥。後進微速がかかっても外輪はそのまま、ビクともしないのに驚かされました。外輪が回り始めたのは、すっかり桟橋を離れて、回頭が終わったときからです。

なるほど、入出港の微速時は、電動スラスターで歩かせ、外輪を使うのは前進、巡航時のみというわけか‥‥。もっとも、外輪で後進をかけていたら、しっとりするどころでなく、ズブ濡れになっていたでしょうから、これは幸いだったかもしれません。

(26年9月21日撮影)

(『外輪を見ていた午後…6』に続く)

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タグ : 琵琶湖琵琶湖汽船ミシガン

外輪を見ていた午後…4

(『外輪を見ていた午後…3』のつづき)

159094.jpg前回触れた、ダミイのエンジン・ロッド・クランクが消えうせていた件のつづきです。乗船前に待合室近くで眺めた、「ミシガン」の大型模型にそれがありました。

造船所の手によるビルダーズ・モデルなのか、細部まで再現されたとても立派なもので、ケースに鼻先を近づけて興味深く拝見。ちなみに諸元は琵琶湖汽船のサイト「船のご紹介・ミシガン」に載っています。


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下写真、甲板室後端の角近くに開口部があり、そこから長々とロッドが伸びて、外輪の軸端にあるクランクに至っているのがわかりますね。

模型は他にも、現状とはディテールの違う部分がありましたから、おそらく就航当時を表現したものなのでしょう。

159096.jpg回る外輪に魅入られながらも、ロッド周りが取り去られた跡は、どうなっているのか気になってきました。甲板を一層下りて、船尾を検分してみることに。

左舷は‥‥立入禁止でした。半ばあきらめて右舷をのぞいてみると、エレベーターとウインドラスや機器函の間をぬって、船尾への細い通路が! 案内には「パドルウォッチ」! えっ、まさか‥‥。


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エンジンのダミイがあったと思しき小部屋には、喫煙所が設けられ、壁には北米の河川交通の歴史を描いた、パネルもいくつか掲げられていました。

いや、それよりですね、この向こう、外輪の真横に抜けられるということ? 

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うおおおおお!

(26年9月21日撮影)

(『外輪を見ていた午後…5』に続く)

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タグ : 琵琶湖琵琶湖汽船ミシガン

外輪を見ていた午後…3

(『外輪を見ていた午後…2』のつづき)

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ザーザーと水を噛む音と、湧き上がる水煙に包まれて回転する勇壮そのもののシーンを目前にすると、おっさんはもう異常な興奮状態に。脳内に渦巻くもろもろの興味は置いておいて、心ゆくまで堪能しなければ、気持ちがおさまらなくなってきました。

視線を後ろの水面にやると、これも生まれて初めて生で目にする、船尾外輪のウェーキが! まるでパドルの間隔を水面にスタンプしたように、点々と横向きの波が立つんだ‥‥。遠ざかるにつれて、波頭が盛り上がって砕けるのも面白く、スクリュープロペラとは全く異なる水の造形に、目を皿にして見入ったものです。

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いや~‥‥‥‥。

手すりにもたれて外輪を見つめたまま、約15分経過。

159091.jpgふと我に帰り、一層下の甲板に、外輪を間近に観察できるような、張り出し(参照)があるのに気づかされました。行ってみよう!

道々の壁面に掲げられていたデッキプランによると、最初に上がった4層目の最上甲板はスカイデッキ、今外輪を眺めていた3層目は、船室がクルーズデッキ、船尾露天甲板がテラスデッキ。その下、2層目の張り出しは‥‥。
パドルウォーク! 
いい名前じゃないですか、まさに今の私のためにあるようなものです! ツボを心得たサービスぶりに、テンションはますます上昇するばかり。

図を眺めていてもう一つ、気になったのは1層目(図の最下段)船尾の、「クランク室」と書かれた両舷それぞれある小部屋。ここから棒状のものが伸びて、外輪の軸に接しているような描かれ方をしていますね。

これは、プロトタイプにした米型川蒸気船を模して、外輪を駆動するレシプロ蒸気エンジンと、そこから伸びるロッドを、ダミイとして備えたことを示しているのでしょう。クランクは、外輪の軸の外側に付いているもので、部屋の中にあるのはピストン/シリンダーですから、「エンジン室」とでも呼んだ方がよろしいでしょう。それとも、かつての本物が、「クランク室」と呼んでいたのに従ったのかしら。

話を戻すと、気になったのは、外輪から「クランク室」に伸びているはずの2本のロッド、図とは違って、ロッドはもちろんクランクすらも見当たらなかったからです。ダミイの補修が負担にでもなって、外してしまったのかな? この疑問は後で、嬉しい発見につながりました。

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さっそくパドルウォークに下りると‥‥うひょ~!

水しぶきが時々かかるほど近い! 文字どおり眼前で繰り広げられる、このスペクタクルというか何というかその。パドルが水を叩き、上がってくる際にまた盛大に水をすくい上げて、滝のように落とす! その衝撃がズンズンズン、といった感じで、ハンドレールをつかむ手や、甲板を踏みしめる足に、ダイレクトに伝わってくる!

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このままさらに10分経過。

(26年9月21日撮影)

(『外輪を見ていた午後…4』に続く)

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タグ : 琵琶湖琵琶湖汽船ミシガン

外輪を見ていた午後…2

(『外輪を見ていた午後…1』のつづき)

159084.jpg「ミシガン」に乗り込んで桟橋を見下ろすと、陸上のスタッフが勢ぞろいし、手を振ってのお見送り。桟橋もご覧のとおりカラフルで、陽射しとあいまって明るい雰囲気にあふれています。

左手にもやう「ビアンカ」、高い目線から側面を見ると、乾舷より上部構造物の方が高い、内水船らしいスタイルが強調されて、さらに魅力的です。以前訪ねた、松島めぐりのフネブネ(『第三芭蕉丸の船旅…7』ほか参照)とも、相通ずるものがありますね。

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最大の楽しみは後にとっておこう‥‥などと、脳内でもったいをつけながら、まずは眺めのよい最上甲板へ。

159087.jpg風そして湖面も穏やか極まりなし、かといって靄がかかっているわけでもなく、視程もまずまずで眺望も佳しと、船行きにはいうことなしの好環境。

桟橋を離れて間もなく、大津港からも見えていた防波堤の近くを通過。表面は石組みで、一見古そうに見えますが、昔からあるものでしょうか。4分割された間には、なぜかアーチ橋が渡されており、堤上には噴水がいくつも設けられて、出港前も巨大な水柱を見せてくれていました。

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さて、この船に乗った目的はただ一つ。まあ、いうまでもありませんが、
外輪が見たいから。

しかも、ダミイなどでなく、ちゃんと外輪で推進しているここすんごく重要なので下線付き客船は、国内でこの「ミシガン」をおいて他にないと聞けば、外輪川蒸気好きとして、乗らずにおらりょうかと。
ダイナミックに水しぶきを上げるその姿だけでなく、動力として使用に耐える外輪の構造は? 運転中の音はどんな感じ? 振動はどのくらい? などなど、「生外輪」の全てに興味が注がれるのであります!

(26年9月21日撮影)

(『外輪を見ていた午後…3』に続く)

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タグ : 琵琶湖琵琶湖汽船ミシガン